March 2004

2004/3/18  一発選考が本当に良いか?
テネオリンピックのマラソン代表が決定した。

「選考レース」で惨敗した高橋尚子ではなく、「選考レース」で結果を出した坂本直子と土佐礼子が女子の代表に選ばれた。陸連の選考基準に照らせば全くまっとうな選考であると評価できるが、国中がなぜかガッカリムードに包まれている。三井住友海上には脅迫電話まで殺到する始末だ。

毎回毎回、オリンピックのマラソン代表選考は混乱し、そのたびにスポーツファンやメディアや、浅はかなスポーツコメンテータ達からは、「選考レースを1本にして、1発勝負の選考に変えるべきだ」という声高な意見が聴こえてくる。しかし私は、マラソンと言う競技において、1発勝負が優れた選考方法だとは、全然思わない。

うまでもなくマラソンは、肉体の限界を競うという特性上、極めて特殊でデリケートな競技である。気象条件やコースの特性によって、生理的あるいは体格的な相性や得手不得手による有利不利が生じ、タイムだけでなく勝敗が「不可抗力的」に左右される。

その意味で、マラソンはスキーのジャンプに似た特性を持つ。このような競技において、1発勝負がフェアだとはとても思えない。スキージャンプのオリンピック代表を、たった1回のジャンプで決めるようなものである。

「1発勝負の選考レースで勝てないようなランナーは、どうせオリンピックでも勝てない」という意見は良く聞くが、マラソンに限って言えば的外れだ。水泳や短距離走やボールスポーツ、学校の入学試験なんかは1発勝負がフェアと言えるが、マラソンは違う。

れだけではない。代表選考レースを1本だけにしてしまうと、他にも様々な弊害が発生する。

1番大きいのは、ビジネス的な問題だ。容易に想像できるであろうが、陸連は収入の多くを国内の数あるレースのテレビ放映権料やスポンサー料に頼っている。ところが、選考レースが1本だけになると、有力選手達はみんなこの1本の選考レースに集中せざるを得なくなる。したがって、その前後の多くの大会には有力選手が一切出なくなり、全く注目されなくなってしまうのだ。もちろんそこから得られる収入はガタ落ち。スポーツビジネス的に見て、賢い方法だとはとても思えない。

それに、選考レースが1本だけになれば、その選考レースはタイムではなく順位だけが焦点になる。当然、序盤から多くの有力選手が牽制し合う展開になり、遅いレースになるのは必至だ。つまり、今年の大阪国際のような展開のレースからしか代表を選べなくなるのだ。序盤からペースが速いレースにも対応できるランナーを、的確に選考できなくなってしまうのである。そのうえ、1発勝負な上にタイムも遅くなるのだから、フロック勝ちするランナーが出る可能性もハネ上がる。

オリンピック本番とは全然違う寒空の下、遅〜いレース展開の末、トラック上がりの初マラソンの3人が、トラック勝負でフロック勝ち・・・・・・こんなものはオリンピック代表選考でも何でもない。日本中から不平不満が爆発するのは目に見えているし、そもそも実力があるランナーが不利になってしまうのだから、フェアでも何でもない。

以上のような理由から、マラソンの代表を1発勝負で選ぶなんて、考えただけでもゾッとする。マラソンという競技の特殊性ゆえの弊害が多すぎるのだ。

と言って、毎回問題を起こしている現行の選考方法も、維持すべきではない。では、どうすべきか。答えは簡単だ。「選考レース」という概念をバッサリ捨てて、「実績を全て総合的に評価する」という実績重視の選考方法に切り換えるべきである。

陸連はこれまで、選考対象のレース以外での「実績」を、事実上加味して代表を選考してきた。しかも、実績が加味されて選ばれたランナーが本番で結果を出し、選考レースで一発好タイムを出したランナーは本番で惨敗してきた歴史がある。その意味でも、陸連としては実績No.1の高橋を出したくて出したくて仕方がなかったハズだし、国民もみんな正直そう思っていたハズだ。

ならば、どこからも文句が出ず、最もフェアで、かつ最善の代表選手を選考できる方法は、「実績重視」しかない。

もちろん「実績による選考」というだけでは抽象的すぎて、その困難性は否めない。しかし例えば、海外のレースを含めた幾つかの大会に重み付けされた順位ポイントやタイムポイントを設定し、過去2〜3年間の獲得ポイントによって選考するなど、客観的な規定の設定は幾らでも可能だ。ケニアなどの選考方法はこれに近いし、日本でも例えばバドミントンの代表はこのような方法で選考される。

こうすれば注目される大会も増えるし、有力選手も色々な大会に分散して、ビジネス的にも良い。選手も目標を立てやすいし、ファンとしても楽しめる。何より、本当に実力のあるランナーが有利になる。

メリカでは、ご存知のとおり、マラソンの代表も1発勝負で選考している。しかしアメリカの場合は、1発勝負がフェアと言える短距離の選考会がメイン。短距離に比べて圧倒的に人気のないマラソンの選考は、その付随イベントとして仕方なく1発勝負でやっているのが実情だ。

それに、実際にオリンピックで結果を出しているのは、実績を蓄積評価して代表を選考しているアフリカ勢である。アメリカと違ってマラソンの人気が極めて高い日本が、アフリカではなくアメリカの真似をしなければならない理由はどこにもない。

サッカーの日本代表メンバーだって、実績を考慮して監督が勝手に決めるが、誰も文句は言わない。マラソンだって根本的には同じである。ヘタに選考レースなんて導入するから、実績を加味した途端に「アンフェアだ」と叩かれるのだ。

「選考レース+実績」で選べばアンフェアだと叩かれ、「選考レースだけ」で選べば国民から不満爆発。だったら、選考レースなんてバッサリやめて、「実績で選びます」と最初からキッパリ言えば良いのだ。誰もが納得する方法は、これしかない。






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