FACT OR FICTION ? 
2005 / 05 / 27 
「プロ野球に、ビデオ判定は要らない?」(2)

(先週からの続き)

球にビデオ判定を導入する際、障害となり得る2つめの事実は、「審判の下した判定が覆ったら、どうリスタートするのか」を決めることが難しいという点だ。

アメフトの場合、ジャッジが下される時点が、一連のプレーの最後となることが多い。これに対して野球では、審判のジェスチャーを見てプレイヤーが次のプレーを選択し、さらにプレーが続くことが、わりとある。

たとえば、ライナーをショートバウンドで捕ったかダイレクトで捕ったかによって、走者の行動が180°変わる。後ろの走者がアウトになったかセーフだったかによって、先の走者のプレーがタッチプレーになったりフォースプレーになったりもする。打者走者も、ホームランの判定を見れば速度を緩めて走り始めてしまう。

判定が覆った場合に、サッカーやラグビーなら、「キックから再開」などと決めておいても違和感がない。だが、クリケット系スポーツの宿命で様々な場面が考えられる野球では、全ての場合について適切なリスタートを予め決めておくことは不可能だ。ノーカウントにして打ち直したり、裁量で走者を進塁させると、違和感や不公平感を生みかねない。

上のような困難さは、たしかに否定できない。しかし、いまの日本プロ野球こそ、ビデオ判定を思い切って導入してみるべきだ。「難しい」という理由をつけて、ビデオ判定導入に二の足を踏むなんて、それこそナンセンスである。

ルールなんて導入当初から完璧である必要はない。NFLのチャレンジ制度だって、1度廃止されて復活したり、いまでも試行錯誤でどんどん改善されている。スポーツはそうやって発展していくのだ。

では、ビデオ判定の乱発防止の問題についてはどうするか。まずは、「チャレンジは1シーズン10回まで」といった回数制限が現実的で、オモシロイと思う(これでも1シーズンで120回ものビデオ判定が発生し得る)。野球では、1つの試合の中でチャレンジのリスクを課すことが難しく、試合を左右する微妙な判定の頻度も低いからだ。

1シーズンでの回数制限をすれば、重要でない場面でチャレンジが乱発することなく、本当に重要な場面だけでVTRによる正確なジャッジが為されるようになる。チームとしての長期的な戦略的要素も加わるのだ。

リスタートの問題は、確かに難しい。だが、裁量でリスタートを決めたって、誤審のまま試合を続けるよりは格段の公平感が生まれるのだから、やっぱり今よりは相当マシになるはずだ。それに、グラウンドルールをはじめとして、そういったルールは既に多くある。

して何より、ビデオ判定を導入すべきだと私が思う1番の理由は、「ビデオ判定を導入すれば、審判の権威が失墜するどころか、逆に威厳も技術も増すだろう」と考えられることである。

たとえばNFLのビデオ判定では、サイドラインのモニターを主審がひとりで覗き込み、何度も巻き戻して入念に確認する(実際にはビデオ操作のためオフィシャルと交信しているが、判定を下すのは主審)。そして、「主審であるこの俺様が確認したんだ」と言わんばかりに、堂々と確認結果を宣言する。

つまり、たとえビデオ判定だろうと、それは主審が行う立派な「ジャッジ」であることに変わりはないのだ。NFLを観ていて、このようなシーンで主審を「情けないナァ」と思ったことは、1度もない。逆である。このときばかりは、審判が「主役」だ。

抗議されて顔を青くして判定をコロコロ変え、自信のない判定を激しくカミながら言い訳する情けない審判を見せられるより、VTRで確認した「自信ある」判定を堂々と発表してもらうほうが、審判の威厳は増すだろう。

それに、チャレンジ制度を導入し、チャレンジに回数制限を設ければ、さらに良いことがある。「抗議は全てチャレンジとみなす」という規定にすることができるのだ。抗議した途端に、「残りチャレンジ可能回数」が自動的に減る。ヘタに抗議すると、自分が退場になるだけでなく、チームに迷惑をかけてしまうのだ。現在のような、審判を審判と思わない敬意を欠く抗議の乱発を解消できる。

のように、回数制限つきのビデオ判定導入を提案したい。こうすれば、重要な判定の精度が上がり、むやみな抗議の数は減る。ビデオで鑑定されるのだから、審判も一層努力するだろう。NFLのインスタント・リプレイのように、中継するテレビ局のVTRをそのまま利用すれば、コストだって殆ど掛からない。

幾ら金を掛けて審判を増員したり教育プログラムを拡充したって、スポーツのジャッジを人間が全て正確に行うのは不可能だ。誤審が常に問題に上がる現実を鑑みれば、「どんな誤審だろうと審判の判定こそが正しい」という奇麗事も、もはや通用していない。

審判は人間だ。難しい判定でのミスは責められない。ミスジャッジは必ず発生する。それを認めた上で、ファンや選手が納得する、フェアでかつ審判の威厳を保った、円滑でオモシロイ運営を模索すべきだ。いちはやくインスタント・リプレイを導入して、日本プロ野球がメジャーリーグの先生になって欲しいものである。

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