FACT OR FICTION ?  2005 / 11 / 26 
 「五輪のフィギュアスケートに年齢制限があるのは、ナンセンスである」

存知のとおり、国際スケート連盟(ISU)は、フィギュアスケート競技に一定の年齢制限を設けている。

7月1日に15歳になっていなければ、次シーズンの五輪には出場できない規定になっているのだ。この規定のため、シニアの世界大会・GP(グランプリ)シリーズ2戦目で衝撃的な初優勝を飾った浅田真央選手(15歳)は、トリノ五輪に出場できない。

SUがこのような年齢制限を設けている理由は、表向きは、選手の健康面への配慮である。技が複雑化した近年、世界最高レベルの大会に成長途上の選手が出場し、トリプルアクセルなどの危険な技を連発すれば、怪我などで選手寿命をも縮めてしまうことになりかねないからだ。体操などでも、同様な理由で大会によって年齢制限が設けられている。

だが、これだけの理由では実は説明がつかない。GPシリーズだって、五輪と同様に世界のトップ選手が競う大会であり、五輪代表選手を選考するための大会でさえもあったりする。実際に浅田選手は、このGPシリーズで、サーシャ・コーエン選手(アメリカ)や荒川静香選手といった、世界のトップスケーター達に勝っているのだ。

城田憲子フィギュア強化部長が、「GPと五輪で年齢の制限が違うのはおかしい」と訴えたが、これは全くごもっともな意見なのである。つまり、ISUの本当の狙いは、別のところにあるのだ。

SUがこの年齢制限を15歳に引き上げ、従来の特例措置(ジュニア選手権で好成績をあげれば年齢制限が適用されない)を撤廃したのは、15歳のタラ・リピンスキー選手(アメリカ)が長野五輪(98年)で金メダルをとった直後のこと。さらにその直前には、オクサナ・バイウル選手(ウクライナ)が15歳で世界選手権を勝ち、翌年のリレハンメル五輪(94年)で金メダルをとっている。

ファンの皆さんなら、この2人が「パっと現れて、すぐ消えた」といった印象を持っているはずだ。実はこの2人、金メダリストになった直後に、あっさり競技を引退してプロに転向しているのである。

ISUは1995年に「GPシリーズ」を開始させ、テレビ放映権などの大きな契約も結び、まとまった収入を得ることを画策してきた。ところが、アメリカを中心にプロフィギュアスケートが絶大な人気を誇っており、金メダルという実績を得た途端に、人気選手がプロに転向し、アマチュア競技から居なくなってしまう。これではISUはオモシロクない。

一方で、人気プロスケーターになって絶大な収入を得るには、「元世界選手権王者」や「五輪金メダリスト」といった肩書きが重要でもある。そこでISUは、世界選手権と五輪にだけ、厳しい年齢制限を設定しているのだ。つまり、「プロフィギュアスケート」の絶大な人気に対抗する、「人気競技スケーターの囲い込み」こそ、ISUの本当の目的である。

日本でも人気の高かったフィリップ・キャンデロロ選手(現在はプロスケーター)などには、「協会全体がマフィアだ」とまで言われたISU。城田強化部長のコメントは、この利益優先のやり口を熟知してのことなのだ。

だ、この年齢制限が、15歳で金の亡者にならないようにとの教育的役割も担っていることも、否定できない。日本ではこういった考え方は少ないが、テニスのジェニファー・カプリアティ選手のように、若くして成功して失敗するといった例を少なからず見ているアメリカでは、こういった認識も小さくない。年々厳しくなるNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)の年齢制限なども、アメリカでは容認する向きが多い。

また、あまりに早く人気選手がプロに転向することは、アマチュア競技を運営し選手を「育成」しているISUにとっての死活問題。フィギュア界全体のためにもマイナスとなり得ることを、また否定できないのだ。

それに、年齢制限が選手の競技生命を伸ばし得ることも、また事実。成長途上の手負いの選手が、今年の村主選手のように無理を重ねて五輪を目指すなんてことも、防ぐことができる。日本人選手はともかくとして、世界のトップ選手にとって「プロスケーターとして稼ぐこと」が大きな魅力であるが故に、五輪で勝つために無理をする場合も考えられるのだ。

浅田選手が来月のGPファイナルで好成績をあげようものなら、日本中、いや世界中で「年齢制限なんて不要では?」という議論が起こるだろう。だが、とりわけ「プロ」の存在が大きいという特殊な事情があるフィギュアスケート界では、「年齢制限なんてナンセンス」などと一概に言えないのだということを、我々は理解しておくべきである。

     JunYa Inami


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