2006 / 05 / 30
  「座布団投げ」を大相撲から絶滅させよ

相撲五月場所が終わった。土俵の上では大関・白鵬の見事な相撲が観られたわけだが、観客席では相変わらずのミットモナイ光景が繰り広げられた。二日目、横綱・朝青龍が若の里に敗れ休場に追い込まれた一番で、待ってましたとばかりに、観客席から座布団が乱れ飛んだのである。

春場所の千秋楽で朝青龍が優勝を決めた一番のように、たとえ横綱が勝ったとしても、座布団は乱れ飛ぶ。過去には、横綱土俵入りで座布団を投げた観客もいた。よく、「横綱が勝ったのに座布団を投げるな」といったファンの声を聞くことがあるが、何を呑気なことを言っているのか。横綱が勝とうが負けようが、座布団投げなんて野蛮な行為を、先進国に住む現代人がするべきではない。

稚園児でもわかる話だ。座布団投げは非常に危険である。もちろん、座布団そのものは硬くも重くもない。だがそれでも、子供やお年寄りも多いことを少し考えれば、思いがけない方向からモノが飛んでくる危険性くらい想像できよう。座布団が弓取式の弓を弾き飛ばすかも知れない。誰かの眼鏡を壊し破片が刺さるかも知れない。座布団を当てられた観客が乱闘騒ぎを起こすかも知れない。

また、もっと考えて欲しいのは、モノが当たることだけでなく、「思わずよける」ことも危険を生むということだ。NHL(北米アイスホッケーリーグ)では2002年に、パックが観客席に飛び込んで死者が出る事故があった。このとき亡くなった観客の少女は、パックが直撃したことではなく、よけようとして無理な体勢になり血管を傷つけたことが死因だったと報じられている。

硬くも重くもないからと言って座布団を投げまくる観客は、人間が備えるべき危険予知能力が欠如していると言わざるを得ない。いい大人が座布団をいきおい放り投げるサマは、平和を愛する日本人の映像とは思えないし、こんなものをテレビ中継するなんて教育上もよろしくない。

ところが、NHKの実況すら、座布団が舞う様子を賛美するかのように伝えることがある。相撲協会も動かない。館内の警備員すら、「座布団は投げないでくださーい」と壊れたレコードのように繰り返すだけで、微動だにしない。警察が暴行の現行犯で片っ端から逮捕しても良いくらいなのだが・・・。

布団投げの黙認だけではない。角界の価値観は実に奇妙だ。圧倒的に強い横綱がちょっと稽古を休んだだけで、横綱審議委員会が引退勧告も出さんばかりに大騒ぎする。普通に考えれば、弱い力士が稽古を休むほうが、よっぽど注意されるべきではないか。

古来より横綱は「人間の代表」であることを示すため綱をまとっているのだが、この綱を注連縄(しめなわ)と勘違いして「横綱は神に相当する地位だ」と暴論を振りかざし、「朝青龍には神にふさわしい品格がない」などと非難する。その一方で座布団を投げる日本の代表的なフーリガン行為をやめないのだ。そんなファンに、横綱の品格を云々言う資格など全く無い。

座布団を投げたいがために横綱が負けるのを期待する観客も多い。ここまで来ると、座布団をがっちり固定するか、座布団自体を全て撤去するなど、何らかの対策が急務だ。実に恥ずべき話だが、このままでは、国技館で大惨事が起こっても全く不思議ではないのである。

    稲見純也 JunYa Inami

<この記事は、06年5月23日発売『週刊漫画サンデー』に掲載された内容です>


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