2007 / 01 / 08
  取り返しのつかない事故が、箱根駅伝で起こる前に

ーフマラソン大会に、200人の大学生が出場するとしよう。怪我や体調不良により、何人かの選手は途中でリタイヤすると、あなたは予想するはずだ。

正月の人気イベント、箱根駅伝。20チームそれぞれ10区間、計200人もの選手が、ハーフマラソンに匹敵する約20`の距離を走る。うち2区間の40人は、厳しい山道だ。なのに、チームの戦いを終わらせないために、誰ひとりリタイヤが許されない。箱根駅伝は、200人の選手全員がハーフマラソンを完走することを「前提」にしているという、実に信じ難い競技会なのである。

年(’06年)の大会では、8区で順天堂大の難波祐樹(当時4年)が脱水症状でふらふらになった。2区でも日大のサイモン(同2年)が腹痛で、歩くほどの速さにまで失速した。日大の小川聡監督はサイモンに、「駅伝なんだから止まるな」と叱咤。タスキを繋ぐため選手達は走り続けねばならず、監督もそれを止めなかったのである。

だが、もしこれが単なる腹痛や脱水状態ではなく、命にかかわる発作だったらどうするのか。いや、脱水状態だって、命にかかわる非常に危険な症状だ。このままでは近い将来、箱根駅伝で死者が出ても全く不思議ではない。

肉体的な問題だけでなく、ブレーキとなった選手の精神的ショックも心配だ。前回大会の日大は最終的に総合3位に入り、「サイモンのブレーキさえなければ優勝だった」という声が大きかった。レース後、号泣してチームメイトに謝った彼の心情はいかばかりだったか。

サイモンは2年生だったが、このあと駅伝部を退部して大学も中退、故郷のケニアに帰国してしまった。1年生のとき3区で区間賞を獲った逸材が、である。

らふらの選手を止める決断を、監督だけに期待するのも酷だ。箱根駅伝は各大学にとって貴重な「宣伝」の場であり、タスキを途切らせて成績を残せなければ、大学に雇われている監督のクビが危うくなる。悲劇を防ぐためには、ふらふらの選手は止めたほうが有利となるように、ルールから変えるしかない。

たとえば、10区間で合計2回まで、区間途中でも選手を交代可能にしてはどうだろう。控え選手を車で併走させても良いし、後でリタイヤ地点から走らせてタイムを加算したって良い。十分実現可能である。

本のスポーツ界の最も悪い点は、「成長途上の選手に過酷な競技をさせ、ファンがその様子を楽しんでいる」ことだ。今年の甲子園でも、4日連続で完投(延長15回を含む)した早稲田実の斎藤佑樹に「ハンカチ王子」などと呑気に盛り上がり、肩の酷使を心配する声はほとんどなかった。

人気の箱根駅伝は、日本陸上界の裾野を広げる大きな役割を、たしかに果たしている。だが甲子園とは違い、関東の大学しか参加できない単なるローカル大会だ。箱根で潰されることを恐れ、関東の大学へ進学しない選手も増えるかも知れない。箱根駅伝の地位を守るためにも、人道的な大会に生まれ変わるべきだろう。

    稲見純也 JunYa Inami

<この記事は、12月26日発売『週刊漫画サンデー』に掲載されたものです>


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