2007 / 02 / 19
  東京マラソンは本当に成功なのか

月18日(日曜日)、約3万人の市民ランナーが参加する第1回東京マラソンが開催された。最大で7時間近くに亘って、首都の主要道路封鎖を余儀なくした大イベントである。

世界の他の大都市マラソンのように、競技者側・市民側から発展し成長していったレースではない。日本陸上競技連盟(陸連)が主導してつくり上げたレースでもない。競技者が欲しがったわけでも、マラソン競技の中心団体が欲しがったわけでもなく、政治が欲しがったイベントだ。

都知事が思いつきで始めた、選挙対策の話題づくりイベントで、東京五輪招致の宣伝の一環、石原電通マラソン・・・等々といった冷めた見解は置いておくとしても、12億5千万円もの運営費を投じて開催すべきイベントなのか。ほとんどのメディアが伝えているように、本当に大成功なのか。さすがに甚だ疑問である。

ず、都知事選(4月)や他の5大都市マラソンとの兼ね合いで急遽選んだ開催日程からして、極めて利己的だ。市民レースとして40年来の人気を誇る、同じ都内で開催される伝統の青梅マラソンと全く同日に開催日を設定し、結局は青梅マラソン側が開催日を変更せざるを得ないハメになった。

さらに、私立大学の入学試験がある時期に、朝から始まる大レースを決行したことも、考慮が足りないと言わざるを得ない。東京の学校の受験には、地方からの多くの学生にとって宿泊だって必要だ。地方や海外からの参加を積極的に受け入れている東京マラソンでは、交通だけでなく宿泊施設の確保も、受験生の障害になり得る。この日は、コースのすぐ傍にある慶応義塾大学三田キャンパスでも入学試験が行われたが、大学側曰く「試験日程を決めたときにはこんなイベントは聞いていない」。

もっと言えば、この2月という時期は、東京で最も雪が降る確率が高く、多くの市民ランナーが苦しんでいるスギ花粉も舞っている。世界のなかでも東京こそ、この2月は市民マラソンを避けるべきではなかろうか。

してやはり、3万人もの行列にクネクネと観光名所を廻らせ、その上完走制限時間を7時間と長くとった結果、場所によって7時間近くにも亘って主要道路を閉鎖するという事態によって被る、一般市民の迷惑・損害は大きい。

東京マラソンは、旧来からあった車椅子のレースも統合して、ロンドンマラソンのようにさも障害者にも優しい大会のように盛り上げている。だが、レースの現場に行ってみれば分かることだが、そもそも一般の障害者こそが、このレースで多大な迷惑を被ることになるのだ。なにしろ、ランナーが走っている道路を横断するために係員に誘導される地下鉄通路などは、東京の場合、ほとんどの個所が階段だけなのだ(エレベータはおろかスロープすら道路の両側にはない!)。車椅子では、横断できないではないか!

車両に掛かる迷惑については、「そもそも都心に車で来るな」という意見も多いし、東京の場合は首都高で迂回すれば閉鎖された道路も横断可能な個所も多い。しかし、一刻を争う事故・事件は、やはり想定すべきだろう。

コースに囲まれ「陸の孤島」となった浅草界隈では、「この日に具合が悪くなったら死ぬ」と漏らしたお年寄りも居たという。緊急車両は優先されるとしても、たとえば警備会社の急行サービスなんかはどうなるのか。テロの危険があるこのご時世に、他の大都市を猿真似して、いきなり同じ規模で都市開放型レースを始めようという了見にも、大きな疑問が残る。

既に多くの話題となっている、宅配サービスや地元商店の損害、ランナーが捨てた大量のゴミの問題も、言うまでもない(一部報道であったそうだが、ランナーが捨てたバナナの皮で一般人が滑って転んだというのは、疑わしい情報だが・・・)。

もちろん、関係者以外に全く迷惑を掛けずに、大きなスポーツイベントを開催することは不可能だ。だが、ほとんど効果のないイベントを、多大な税金と一般市民の迷惑を犠牲にして開催することは、もっとナンセンスである。良かったことと言えば、このレースの準備のために違法駐輪の自転車を撤去したことくらいだろうか。逆に言えば、普段は行政がサボっているということでもあるが・・・。

京都内や23区内にだって、歴然たる格差がある。日本全国だけでなく、都内にだって、市民ランナーを呼び込みたいという地域は多いはずなのだ。東京五輪招致問題もそうだが、全ての地域のことを考えずに、東京のド真中の観光名所を巡らせることばかり考えるから、都民不在の税金の使い方だと呼ばれるのだ。

しかもこの東京マラソン、今後も続いて東京の伝統行事となり得るのか、非常に疑わしい。万一、現職都知事が三選に失敗すれば、2回目すら無いかも知れない。それでなくても、未来の都知事選で、「東京マラソン廃止」という公約を掲げた候補者が当選する可能性は高い。

もちろん、都市開放型の市民マラソンの存在自体を否定したいわけではないのだ。ただ、いきなり12億円以上の巨費を投じるイベントにするべきなのか。いきなり3万人を走らせるべきなのか。東京のド真中の観光名所を回る必要があるのか。7時間も完走制限時間をとるべきなのか・・・。やり方を間違うことで、マラソンという競技が一般市民に悪者扱いされては、日本の陸上界にとっても痛手である。

    稲見純也 JunYa Inami


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