理科系の人間なら、当然疑問に思っていることかも知れない。
プロ野球では、球速測定器の表示によって「日本球界最速記録」などという称号が誕生している。現在、横浜のマーク・クルーンの時速161`が、その記録とされている。メジャーリーグでは、A.J.バーネット(現ブルージェイズ)が、一昨年5月に時速104マイル(167.3`)を非公式ながらマークしており、これが世界最速記録だというのが、何となく定説になっている。
ちなみに、日本でよく言う「スピードガン」というのは、米ディケーター・エレクトロニクス社の商品名だ。
こうして球速表示に「誰が最速の投手か」などと楽しむ我々だが、大事なことを忘れてはいないか。そう、どんな測定装置にも必ず「誤差」があるのだ。
では、球速測定器の誤差はどれくらいなのか。球速計時は1935年にアメリカで導入され始めたと言われるが、以来70年、メーカーによれば現在その誤差は±時速0.2`程度だそうだ。計測器を向ける角度を変えても、誤差が出ないように設計されている(とメーカーは言っている)。
だが、ある開発者は「投球ではなくバットのスイングや打球の速度を測ってしまうことも多い」と明かす。私の記憶では、つい数年前の日本シリーズで、軽い投球練習で球場の球速表示が時速171`を叩き出した。
昨夏の高校野球でも、同じ投手の速球と変化球とで全く同じ数字が出るなど、どうにも信用し難い。そう言えば甲子園では左投手は球速が出ない、なんて噂も有名だ。バーネットの時速104マイルも、装置の誤作動だとする声は多い。
いずれにしても、測定装置に一定の誤差があることは間違いない。しかし、本当の問題はそこではない。果たして我々は、「測定装置には誤差がある」ということを認識しながら球速表示を見ているだろうか。
誤差がわからなければ、意味のある情報は、実は全く知ることはできない。「今日の最高気温は32度だった」と言われても、誤差が±5度あったのなら、実際は27度だったのかも知れない。誤差さえわからなければ、本当の気温は何度だったのか、皆目知り得ないのである。
装置が正確かどうかは問題ではない。「誤差」を知らされないことが問題なのだ。球速表示の誤差も知らされずに、球速測定器の示す数字に騒いでいる現状は、実は全くナンセンスなのである。もちろん、気象情報の気温表示も同じである。
稲見純也 JunYa Inami
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