2007 / 04 / 06
  大垣日大の準優勝は、希望枠の存在意義を証明するものではない

79回選抜高校野球大会(センバツ)で大活躍し準優勝した大垣日大(岐阜)は、守備力を重視して選考される「希望枠」という特別枠で出場した学校である。

これを受け、日本高校野球連盟(高野連)の田名部和裕参事は、「軽視されがちな守備力を重視する希望枠が見直されるきっかけとなる」とホクホク顔。各紙も大垣日大の活躍を報じ、読売新聞にいたっては「希望枠の存在意義が証明された」などと断じた。

だが、ハッキリ言って、こういった発言をする人物やメディアのいわば「スポーツ・リテラシー」は、相当低いと言って良い。結論から言おう。準優勝した大垣日大が証明したことは、希望枠という制度が優れていることではなく、大垣日大が強いチームであるということに過ぎない。

季地方大会の成績を考慮した結果、28校の一般選考枠から漏れて補欠校にまわった学校のなかから、守備力が高い(最後の4試合の失点や失策数を評価する)1校を繰上げ当選させる。それが希望枠だ。

ところが、今年この希望枠で選出された大垣日大は、決して守備だけのチームではない。昨秋の岐阜県大会では、予選リーグを含めた11試合で90得点を挙げた、破壊力のある打線を誇るチームでもある。

希望枠選考の対象となる最後の4試合だけ見ても、大垣日大は計19点(コールド勝ちを含む)も挙げている。全国10地区の補欠校2位までを含めた全20チームを得失点率(得点を得失点合計で割った値)順に並べても、下記のとおり大垣日大は1位となるのだ。

 補欠校の得失点率順位(最後の4試合のみ)

  1位 大垣日大 19得点5失点 (.792)
  2位 浦和学院 22得点6失点 (.786)
  3位 北海道栄 17得点6失点 (.739)
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  18位 海星   12得点13失点 (.480)
  19位 星稜   24得点29失点 (.453)
  20位 徳島商  15得点19失点 (.441)

(注:得点と失点はコールドゲームや延長戦にかかわらず単純に加算した)

・・・つまり、もし仮に、希望枠が守備力だけを評価するという意味不明な枠ではなく、スポーツでは一般的で順当な得失点率で評価する枠だったとしても、今年の希望枠で選ばれた学校は大垣日大だったのである。

このようなチームが大活躍したことは、守備力だけを重視する希望枠を正当化する理由にはならないし、守備力だけを重視する希望枠の存在意義を証明したことにもならない。小学生でも分かる話だ。

前年の秋季大会の最後の4試合でわずか8得点しか取れなかったにもかかわらず、守備力を評価されて昨年希望枠で出場した一関学院(岩手)と、今年の大垣日大は、全く違うのである。一関学院が昨年のセンバツで初戦敗退し、大垣日大が今年準優勝と大活躍したことは、守備力ではなくむしろ打力の重要さを証明していると言える。

もそも大垣日大は、昨秋の岐阜県大会・西濃地区予選リーグを6戦全勝で突破し、岐阜県大会も5連勝で優勝。東海大会に進出し、準々決勝で敗れた相手は他でもない常葉学園菊川(静岡)だ。つまり、新チームになってから、センバツで日本一になった常葉学園菊川にしか、公式戦で負けていないのである!

要するに、大垣日大は「守備力が高い」のはなく、「強い」のだ。少し前まで、センバツに出場する32校は全て一般枠だった。補欠校のなかで最も得失点率が高い大垣日大は、希望枠や21世紀枠のようなバカげた枠がなくても、32校の一般枠には選ばれていたハズだと言って良い。

こんな強いチームを、一般枠で堂々と出場させてあげることもできずに、希望枠という救済枠で出場させてしまった高野連。希望枠をつくったことを正当化するより、むしろ反省するべきではないのか。

球において、守備が大切だなんてことは、高野連に言われなくても誰もが分かっている。だがもっと重要なことは、「大切なのは守備だけではない」ということだ。優れた打力も併せ持った大垣日大が大活躍したことが、その何よりの証拠である。それなのに、「大垣日大の活躍によって守備を重視する希望枠の存在意義が証明された」などと言うなんて、スポーツを観る目が無いにも程がある。

欧米では、21世紀枠や希望枠のようなアンフェアでナンセンスな制度は、真っ先に批判の対象となるだろう。こういった制度で出場したチームが活躍したという「だけ」で、そのチームがどんなチームだったかを分析することもなく、これらのアンフェアな制度を正当化しようという日本のスポーツ・リテラシーの低さを、あらためて痛感した今大会であった。

まずは何より、「補欠校にも希望を与える」という意味で名付けられたこの希望枠のせいで、本来は一般枠で選出されるべき実力校が1校、補欠校にまわされているのだという凄まじいバカバカしさに、早く気付くべきだろう。

    稲見純也 JunYa Inami


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