2007 / 06 / 11
  彼の名は、あのスプリンターにちなんで名付けられた

ポーツ界では近年、人種の壁が次々と打ち破られている。そんな波は、モータースポーツ界にも訪れた。今期F1デビューを果たした史上初の黒人F1ドライバー、ルイス・ハミルトン(22歳・イギリス)の登場である。

なお、黒人の血が「薄く」混じったドライバーは過去にもいたから、定義によってはハミルトンは「史上初の黒人」ではない。

しかし、ハミルトンが話題を呼んでいる本当の理由は、肌の色ではなく、実力だ。F1史上初めて、デビューから3戦連続で表彰台(現在、6戦まで記録を伸ばしている)。史上最年少でドラーバーズポイントのトップに立ち、彼が所属するマクラーレンの創始者、ブルース・マクラーレンの記録を47年ぶりに塗り替えた。

そして、6月10日に決勝を迎えた、第6戦のカナダGP。史上4番目の若さで、彼はついに表彰台の中央に立った。

球の華がホームランで、サッカーの華がゴールシーンだとすれば、F1の華は追い抜き(オーバーテイク)シーンと言えよう。カナダGPでは見事なポール・トゥ・ウィンだったのだが、ハミルトンはとりわけこのオーバーテイクに際立った才能を見せるように思う。

下位カテゴリのGP2時代には、地元イギリスのシルバーストーン・サーキットの名物で、追い抜きが滅多に見られないことで知られる「ベケッツ」という高速コーナーで、あっと言う間に2台を抜き去り一躍話題となった。

F1に上りつめた今期も、そのデビューわずか数秒後に、いきなりそんな才能を見せつける。開幕戦オーストラリアGP、スタート直後の第1コーナー。4番グリッドからのスタートとなったハミルトンは、その先でチームメイトのフェルナンド・アロンソが詰まることを完璧に予知し、難なく軌道を変えて脇をするりと抜け順位を上げた。

文章で描写するのは難しいのだが、このシーン、私はF1を観ていて久々に鳥肌が立った。常に一手も二手も先を読む、チェスのようなドライビングも、着実に実践できるのである。

第2戦マレーシアでも、ブレーキタイミングのトラップをかけて、後続のフェリペ・マッサのコースアウトを誘発。砂の舞う第3戦バーレーン、市街地の第5戦モナコでも好走した。

ただ、彼が駆るマクラーレンのマシン自体が速いのだという事実を、忘れるべきではない。アイルトン・セナは、トールマンという速くないチームのマシンでF1デビューし、雨のモナコで2位に入ってその才能を証明した。セナに続くスターとなる逸材か、残りのレースも目が離せない。

3年前、世界中で黒人のひとびとを熱狂させ、勇気を与えたアスリートがいた。ロサンゼルス五輪で、エントリーした陸上4種目全てで金メダルを獲得する活躍をみせた、カール・ルイスである。

人種の夢をも背負って立つ、第2のカール・ルイスがいま、F1の世界で誕生しようとしているのだ。前半送れても、自信たっぷりで後半で抜き返すハミルトンの走りは、まさにカールの走りそのものではないか。それに何より、「ルイス」という彼の名前それこそが、そのカール・ルイスにちなんで名付けられたものなのだ!

アイルトン・セナやカール・ルイスのようなスーパースターとなる逸材なのか、それを証明するための十分な時間が、若い彼には残されている。

    稲見純也 JunYa Inami

<この記事は、6月5日発売『週刊漫画サンデー』に掲載された原稿に、最新の成績を加筆したものです>


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