ヴィッセル神戸の三浦淳宏が監督批判をしたとされる問題は、移籍するだのしないだのと、一ヶ月も続く騒動となってしまった。
起用法について選手が不満を漏らし、罰せられたりする例は、プロスポーツでは全く珍しい事ではない。だが、今回のケースには、特殊で深刻な側面がある。
経緯は、こうだ。三浦は今季、原因不明の過呼吸や倦怠感を訴えていた。5月末、本人が回復したと思った矢先に、松田浩監督にカウンセリング受診を命じられる。三浦は、以前から出場機会を減らされていたこともあり、「回復して、さあ行こうという時に、『カウンセリングに行け』はない」と、不信感を露にしたのだ。
さて、ここで我々が頭に入れておくべきことが、2つある。
◆過呼吸や倦怠感は、パニック障害やうつ病など、精神的な病の典型的な症状であること。
◆精神的な病に陥ったことや、それが治ったかどうかは、本人ですら簡単には判断できないこと。
…私自身、前職の関係上、最もうつ病が発症しやすいと言われるシステムエンジニア系の知人が多い。いつも悩みが無さそうで底抜けに明るい同僚に、満面の笑みで「うつ病と診断されたので休職します」と突然言われ呆然としたこともある。別の知人は、愛する人と念願叶って結婚した直後に、うつ病で自ら命を絶ってしまった。
このように、精神的な病は、ロジックでは判定できない。一見して精神的な病には全く見えないとしても、カウンセリングは受けてみるべきなのだ。
「自分だけは大丈夫」「スター選手がうつ病になるワケがない」といった考え方が、発見を遅らせ、事態を悪化させる。三浦のように「自分はうつ病なんかじゃない、カウンセリングに行けなんてヒドイ」と考えてしまうことこそ、最も危険なのである。
その意味では、神戸が三浦にした指示自体は適切だったし、欧米のクラブなら間違いなくこう指示していただろう。神戸には、昨年3月に、MFのホルヴィをカウンセリングで体調不良から回復させた実績もある。
しかし、だ。もし神戸が本当に三浦のメンタルを心配していたのなら、しっかり休養させるべきだった。6月3日のサテライトリーグ(名古屋戦)のように、彼をベンチに入れながらも試合に出さないという、精神的にキツイ采配をしたことは理解不能である。
三浦の不調の原因が、本当にメンタル面だったのかは分からない。だが、いずれにしても、神戸の対応はお粗末だった。
今回の件を教訓に、Jリーグや各クラブは、選手のメンタルヘルスのケアを、もう少し真面目に考えたほうが良い。選手や監督向けに講習を開催するなど、一般企業と同様の対策を講じるべきである。特にサッカー界は選手の浮き沈みが激しく、精神的にも極めて厳しい世界なのだから。
左サイドからの抜群の攻撃力、極めて精度が高いFK、若手からの厚い信頼…。三浦のような宝を、組織として最低限のケアができずに失ってしまうなど、絶対あってはならないのだ。
稲見純也 JunYa Inami
<この記事は、7月10日発売『週刊漫画サンデー』に掲載されたものです>
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