2007 / 08 / 13
  違和感だらけの「朝青龍騒動」

の病を示す診断書が出た朝青龍に対して、相撲協会・大島巡業部長が言い放った台詞が、「ストレスなら、汗をかけば治る」。心の病に対する理解の無いこの発言に、皆さんの多くが凍りついたのではないか。言うまでもないが、心の病に苦しむひとは、外に出て汗をかこうと体を動かすことすらできないから、苦しいのだ。

相撲ファンとして、相撲協会の内部にこんな考え方の人間が存在するなんて、私は信じたくない。であるから私は、大島親方はあえて問題発言をして悪者になり、朝青龍を擁護しようとしているのだと信じ込もうと鋭意努力中である。

かし万一、こういった発言が本心であるとするならば、大島親方こそ角界から即排除されるべきではあるまいか。人気が上がらないとか、人材が確保できないとか、そういうレベルの話ではなく、人の命がかかっている。

心の病は、汗をかかせて治す。ストレス障害の診断が出ている人間に、「頑張ろう」と声を掛け、記者会見にまで引っ張ろうとする。稽古場にAEDも置かない。ドーピング検査もしない。力士が不健康に大型化するのも、手をこまねいて見ているだけ。…こんな世界に息子を入門させようという親が、一体どこに居る。

「彼をモンゴルに帰したら謹慎処分の意味がない」と考えている親方も協会内部には多いようだが、その考え方も相当おかしい。実家に帰ることさえ禁じるのは、謹慎処分ではなく軟禁である。相撲協会は、力士の健康や人権を何だと思っているのか。

「こんな短期間で心的ストレス障害になるはずがない」と言う識者までいる。地震災害や電車事故で一瞬のうちにそのような状況に陥った人々を見てきたこの国で、日本中からバッシングを受けたこともないクセに、そんな驚きの見解を披露する人間が居るなんて、全く信じられない。

このように今回の騒動、もう何から何まで、どうにも違和感だらけだ。

もそも、「サッカーができるなら巡業も出席できるはずだ」という考え方で、安易に「仮病」が疑われたたことからして、おかしいのだ。これだけプロスポーツが人気を博している日本なのに、どうして世論はプロスポーツの厳しさに理解を示せなかったのか。

草サッカーなら、多少の怪我をしていてもできる。だが、8月3日から20日までの間、夕張場所を含めれば休み無しで、群馬から北海道まで毎日移動しながら、猛然と(本場所ほどではないとは言え)突進してくる200Kg近い力士を受け止める稽古と取組を見せ続けなくてはならない夏巡業に参加することは、怪我をしていては困難だ。しかも、「横綱相撲」よろしく受けて立つ相撲を取らなくては、相撲ファンや横綱審議委員会からイチャモンがつく。

診断書を出して巡業を休んだのにサッカーをしたことは、極めて「軽率」だった。もちろん、そんなことを否定するつもりはないが、それだけである。常識的に考えて欲しい。プロ野球選手が腰を痛めてゲームを休んでいるときに、チャリティのイベントで故郷のちびっ子とキャッチボールしてしまったからと言って、4ヶ月もの出場停止を食らって、精神的に追い込まれるほど世間にバッシングされるだろうか?

今回の騒動で、北海道や東北地方のお年寄りなどから「横綱は巡業を軽くみている」といった憤慨の声が上がっているそうだが、それは逆かも知れないのだ。巡業をヘラヘラやって良いのなら、怪我でも参加できる。巡業を軽く見ていないからこそ、本場所よりも厳しい巡業だからこそ、最善のパフォーマンスを見せることができない巡業をスキップしたのかも知れない。朝青龍は横綱に昇進してから、これまで巡業を休んだことは無かった。巡業の厳しさを知っているのは、我々ファンではなく、朝青龍自身だ。

勘違いしないでいただきたいのだが、私は「朝青龍は仮病じゃない」と決め付けているワケではない。根拠もないのに「仮病だ」と決め付けて、ひとりの青年をバッシングすることだけは絶対あってはならないと言いたいのだ。

綱には品格が求められる。彼のこれまでの行動にも、おおいに問題があった。それは勿論、否定しない。

だが、「朝青龍には横綱が備えるべき品格がない」と声高に主張する全てのひとに問いたい。朝青龍に比べて、歴代の日本人横綱に品格があったという証拠を、具体的に知っていて主張しているのですか、と。この一連のバッシングを、日本人による外国人差別と結論付けたくないからこそ、問いたいのだ。

そして相撲協会も、口をそろえて地方巡業は大事だと言うのなら、本場所15日間のうち5日間だけでも地方で行うようにするなど、柔軟な工夫を少しは考えてはどうなのか。本場所と同じ迫力を、地方のファンの皆さんに見せたいと本気で思っているのなら――。

なんだか、そういう落ち着いた議論がすっとばされているから、「朝青龍」騒動は違和感だらけに見えるのだろう。

    稲見純也 JunYa Inami


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