2007 / 09 / 04
  マラソン五輪代表はどう決めるべきか

月25日から大阪で行われた世界陸上。マラソンは、北京五輪の代表選考レースとなった。持ち味の粘りの走りで日本人トップの3位でゴールした土佐礼子が、見事代表に内定した。

これ以外にも選考レースを国内で幾つか行う日本では、特に女子の五輪代表選考は毎回もめる。前回’04年のアテネ五輪でも、実績で群を抜く高橋尚子が落選し、代表に選ばれた土佐礼子が所属する三井住友海上に脅迫電話が殺到する騒ぎまで起きた。

こうして代表選考が混乱するたび、「選考レースを一発勝負に変えるべきだ」という声高な意見が聞こえてくる。そんな議論が起こる前に言っておきたいのだが、私はマラソン代表を一発勝負で選考すべきだとは、全く思わない。

ずマラソンは、肉体の限界を競う、極めて特殊でデリケートな競技である。気象条件やコースの特徴によって、タイムや勝敗が不可抗力的に左右される。風によって結果が左右されるスキージャンプにも似たこんな競技で、一発勝負が最善とは思えない。

他にも、代表選考レースを1本だけにすると、様々な弊害が発生する。まず、収益面だ。日本陸上連盟は、数ある国内レースの放映権料や広告料に収益を頼っている。選考レースが1本だけになると、有力選手はこの1本のレースに集中せざるを得なくなり、他の大会が全く注目されなくなってしまう。もちろん収入はガタ落ちだ。

選手が所属する企業も、多くの大会で選手を露出させることで広告効果を狙っている。露出機会が減れば、企業が陸上から撤退することだって起こり得る。そうなれば、選手にとって大打撃だ。

また、一発勝負の選考レースでは、タイムは関係なく順位だけが焦点になる。序盤から選手達が牽制し合い、遅いレースになるのは必至だ。事実、有力選手が多数殺到した4年前のアテネ五輪の選考レース、大阪国際女子マラソンは、極端なスローペースになった。これでは、速いペースの展開に対応できる選手を選考できない。それに、ペースが遅くなれば、一発屋がフロック勝ちし、代表に選ばれる可能性が跳ね上がる。適切な選考とは到底言えない。

ラソン代表選考が混乱するのは、一発勝負でないからではない。選考基準が曖昧だからだ。たとえば、こう変えてはどうか。国際大会を含む幾つかのレースに順位ポイントやタイムポイントを設定し、最近2年間の合計獲得ポイントによって選考するのだ。

こうすれば、注目される大会も増え、有力選手も色々な大会に分散し、ビジネス的にも良い。選手も目標を立てやすく、実力のあるランナーが有利になる。ケニアなどの選考方法はこれに近いし、日本でもフィギュアスケートやバドミントンなど、これに近い形で五輪代表を選考する競技は多い。

マラソン代表を一発勝負で決めるアメリカを見習え、という向きも多い。だが、アメリカのマラソン代表選考は、大人気の短距離の選考会(一発勝負)の付随イベントみたいなモノだと認識すべきだ。そして、五輪本番で実際に結果を残してきたのは、代表選考が一発勝負ではない、日本やアフリカ勢なのである。

    稲見純也 JunYa Inami

<この記事は、8月28日発売『週刊漫画サンデー』に掲載された記事に加筆したものです>


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