August 2002

2002/08/31 最高の引退セレモニー
山幸二選手(ダイエー)が現役を引退する。何をかくそう、私は高校の野球部時代、彼のリストの強さ・しなやかさが際立つ美しい打撃フォームが好きで、お手本にしていたのだ。このような名選手が引退すると寂しい気持ちになるものだが、実際は引退する選手のほとんどが、人知れずひっそりとグラウンドから去っていくものだ。

少しマニアなプロ野球ファンなら、最も心に残る脇役選手の「引退セレモニー」として、あの選手の引退のシーンを思い起こすのではないだろうか。元広島東洋カープの今井譲二選手だ。

1979年に入団し1989年に引退するまで、わずか5本の安打しか打っていない。しかしその一方で、263試合に出場し、62盗塁、83得点という素晴らしい数字を残している、機動力赤ヘルの80年代を支えた「代走のスペシャリスト」だ。現役時代には、自宅に相手投手のビデオが山と積まれ、投手の癖や、捕手の牽制球のサインのタイミングなどを完璧に把握していた。試合の終盤に競った場面で、相手バッテリーの警戒の中起用され、4回に1回のペースで盗塁を決めた、尊敬すべきプロフェッショナルである。

引退を表明した89年、広島市民球場でのラストゲームの終了後。誰も居なくなったグラウンド。真面目で目立ちたがらない今井は、西田や長島らチームメイトに強引に引っ張られ、バッターボックスに立った。そして、彼らに促され、無人のダイヤモンドを全力疾走で一周するパフォーマンスを見せた。最後はヘッドスライディングでホームイン。広島ナインは皆腕を大きく横に広げ、「セーフ」のポーズで彼のラストランを祝福した。

足のスペシャリストの引退セレモニーとして、比類なき感動を呼んだシーンである。

の年引退したプレイヤーには、中畑(巨人)、松沼兄(西武)、若松(ヤクルト)、鈴木孝政(中日)、淡口(近鉄)、青島(ヤクルト)、香川(ダイエー)らが居る。「バッターはごまかせても、自分のボールはごまかせませんでした」と、一晩中考えたんだろうなと思わせる、それでいて意味不明な(バッターをごまかせれば十分なのでは?)引退の言葉を残した鈴木孝政より、今井の無言の引退っぷりは感動的であった。

あれから13年、今井は熊本市にある実家の鮮魚商を継ぎ、多忙な日々を送っているそうだ。

▽今井穣二

鎮西高→中央大→広島(79〜89)
263試合 27打数5安打 0本塁打 4打点 62盗塁 83得点 打率.185


2002/08/26 毎度おなじみ
84回全国高校野球選手権大会が幕を閉じた。一般にはどうだったか知らないが、2年生を中心に好選手が揃った今大会は、先取りを気取るアマチュア・学生野球ファンの間ではおおいに盛り上がったようだ。

さて今年の閉会式でも、毎度おなじみ、牧野直隆高校野球連盟会長による講評が行われた。彼の演説を聞いていると、ご長寿早押しクイズを見ているようなハラハラ感がたまらない。

「今年の大会は逆転試合が多く、最後まで勝負をあきらめず全力で戦っているあらわれであって、高校野球ファンのご期待に応えるものでありました」

・・・高校野球は企業スポーツでもなければプロスポーツでもない。ファンのご期待に応えることは重要ではないのだ。何よりもまず教育的でなければならない。テレビ朝日の熱闘甲子園を見て感動するような高校野球ファンのために、そして朝日・毎日両新聞社の自己満足のために、教育としての高校野球がどれだけ犠牲になっているのだろうか。だいたい、逆転試合が多かったのは、勝っているチームが最後に油断したのも原因ではないのか?

して今年も、牧野会長は印象に残った試合を得意気に語りはじめた。決して試合の内容には触れない。どことどこの対戦であったか、それだけを列挙していくのだ。しかし、試合が印象に残ったかどうか(すなわち僅差の試合であったか否か)なんて全く無意味だ。そんなことより、印象に残った「プレー」を賞賛するべきではないのか。××選手の、あの場面での、あのプレー、あの判断・・・。まあ、どうせ試合は見てないだろうから、そんな講評は彼には無理だろう。

らに、学校名を間違える才能は天才的である。今年も、鳴門工業を「鳴門高校」と発言していた。しかも2回もである。春の準優勝校なのに・・・。今までにも高知商業を高知高校、横浜商業を横浜高校、などと言い間違えをしている。面白いのは言い間違えの結果が、地元でのライバル校の名前になることだ。鳴門高校は、今年の徳島県大会の準決勝で鳴門工業と対戦している。

宇部商業を宇部高校と間違えなかったのは、宇部高校が強豪ではないからだろう。




2002/08/18 監督の言葉
ポーツ選手にとって、監督やコーチの何気ない一言がずっと心に残ることがある。良い言葉も、そして悪い言葉でもである。私は高校時代、野球部で二塁手であったが、そのときの指導者(監督であり、地理の教師であった)が言い放った言葉を今でも覚えている。

「高校野球は投手が一番大事だ。その次は捕手だ。高校野球の90%は、投手と捕手で決まるんだ」

信じられないかもしれないが、これはチーム全員を集合させて言ったセリフである。私はこの言葉自身正しくないと思っているが、もし正しいとしても、それは指導者としてナインに言うべき言葉ではないことは間違いない。この言葉を聞いた瞬間、この監督ではこのチームは勝ち進めないだろうと思ったことを、鮮明に記憶している。事実、かつての強豪であった我が母校は、以来、北北海道大会にさえなかなか進めないばかりか、今夏に至っては格下とも思える相手に敗れ、地区1回戦で姿を消した。「高校野球の90%は監督で決まるんだ」と彼に言い返したいところだが、それはグッと抑えておこう。

(「高校野球は監督で決まる」という言葉に、反論はあっても、一笑に付す方は居ないであろう。例えば北海道においても、かつて毎年のように地区1回戦でコールド負けをする弱小校であった鵡川高校は、監督が代わった途端に甲子園に出場するまでの強豪になった。取手二から常総学院へ移った木内監督なども好例であり、取手二は今や茨城県大会の2回戦すら突破できない。このような事実は、選手自身の自主性にチームの強さが依存しない、教育としての高校野球の腐敗を如実に表している)

督とは一体何なのだろうか。かつて世界陸上で優勝した日本の某女子マラソンランナーが、その勝利インタビューで「監督さんの言う通りに走りました」と答え、海外の記者を唖然とさせた。あなたにはマラソンに対する自分の考えはないのか、と。また、元サッカー日本代表のフィリップ・トルシエ監督は、こんな言葉を残している。

「日本人は赤信号になると信号を渡らない。自分で判断する力がないからだ」

自分で判断できる日本人になるために、くだらない監督の言葉は忘れるべきなのだろう。


2002/08/10 サインは盗むためにある
木大輔。かつて甲子園をわかせた早稲田実のエースである。しかし昭和57年夏の甲子園大会準々決勝、畠山や水野を擁する「やまびこ打線」池田高校が、この荒木を攻略した。7回で荒木から7点を挙げ、試合も14−2で大勝した。

その荒木大輔にちなみ名付けられた平成の怪物・松坂大輔(横浜高校)。しかし、平成10年夏、PL学園がこの松坂を攻略し、7回までで5点を奪い、甲子園史上に残る延長17回の名勝負を演じた。

れらは、超高校級の投手を攻略した甲子園の名場面として、高校野球ファンの間で語り継がれている試合である。ところで、なぜ超高校級の投手がこれほどまでに打ち込まれたのだろうか?この2つのシーンには、あまり知られていない共通点がある。捕手のサインが盗まれていたのだ。

捕手のサインは2塁ランナーから盗まれる場合と、ベースコーチから盗まれる場合がある。2塁ランナーの場合、ヘルメットを触ったり、腕でコースを教える(現在は禁止されている)ふりをして球種を伝える。ベースコーチの場合、「叩け!」と叫んだら直球、などと球種を伝える。

インとは直接関係ないが、かつて巨人の桑田が不調に陥った頃、こんな噂が広まった。 投げる直前、打者に向けた左手のグラブがクイっと上に上がったらブレーキ(カーブorフォーク)。上がらずにそのままなら直球系(ストレートorスライダーorシュート)。当時TVでチェックしてみると9割がた的中した。

超高校級と騒がれる投手が突如つかまった場合、サインかクセが盗まれていることを、まず疑ってみたほうが良い。そして多くの場合、そのときに「正々堂々」を美徳とする高校野球ファンの記憶に残る名勝負が演じられることも、忘れてはならない。


2002/08/03 理想的な打順とは
番バッターは俊足、2番バッターはバントが上手い、4番バッターは最強打者、・・・というのは野球の打順の定石である。しかし、そんな定石が近い将来覆るかも知れない。ご存知の方も多くあろうが、ある研究機関のコンピュータ・シミュレーションにより、あらゆる打順の組み合わせの中で、2番に最強打者を据えた場合に最も得点力が高いことが判明した。プロ野球で言えば、1シーズンで勝利数が10勝近く増えるのだという。

ともと4番に最強打者を据えるという思想は、走者が貯まった状態で最強打者に回すことにより得点力を上げようとする戦略である。しかしシミュレーションの結果は、最強打者により多くの打席機会を与えることが実は効果的であることを示唆している。また、面白いことに、最も打力の低い打者は9番ではなく7番や8番に据え、2番から打順的に遠くするほうがチームの得点力が上がるという。

この結果は極めて論理的で説得力がある。そもそも私自身も、打率順に1番から順に並べた打線の方が得点力があるのではないかと考えていた。しかし、もっと面白い事実は、この結果が発表されても、2番に中心打者を据えてみようと試みる監督が、誰ひとり居ないという点である。

計算機処理能力が向上した現在、コンピュータシミュレーションによる戦略策定は、もはや常套手段である。典型的な例としては、ピット作業時間や車体の重さを計算し、最適な給油の回数やタイミングを策定するF1などの自動車レースがある。そして何より、定石というものにとらわれない自由な発想を支持したい。例えばサッカーにおいても、4-4-2ではなく1-1-8というシステムにすれば、10点取られるかも知れないが12点取れるかも知れないのだ。

ジャーリーグでは、今や4番ではなく3番に中心打者を置くのが常識だ。メッツのピアザ、シカゴのソーサ、コロラドのウォーカー、サンフランシスコのボンズ、テキサスのA.ロドリゲス、ヤンキースのジアンビー、皆3番打者である。やはり、少しでも打席機会を増やそうという発想である。ヤンキースのジーターやクリーブランドのビスケルなど、強力な2番打者を据えるチームも、既に存在する。

かつて「バントは絶対しない」という、高校野球としては型破りな戦術で甲子園を勝ち取った山梨学院大付というチームがあった。無条件にアウトカウントが増える作戦はバカバカしいという、非常に論理的な戦略であった。今回のシミュレーションを見て、2番に最強打者を据える勇気と判断力のある監督が居ないか、今夏の甲子園に注目したい。





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